1、はじめに
物流市場では、①電子商取引(EC)の拡大に伴う、新たな物流施設需要の拡張(冷凍・冷蔵倉庫の物流網の整備)、②トラック運転手の残業規制強化「物流の2024年問題」の課題に対応した取組(都市型物流施設の設置、共同配送、 自動運転の導入検討等)、③電気自動車(EV)向け電池の保管施設としての「危険物倉庫」の開発等、トレンド変化が見られます。
ここでは、上記のうち倉庫セクターにおけるオルタナティブ投資として冷凍・冷蔵倉庫に着目し、施設拡張に影響を及ぼす諸要因や 、倉庫セクターにおけるコア(普通倉庫)とオルタナティブ(冷凍・冷蔵倉庫)の相違や、日本GLPの施設開発動向等を踏まえた物流開発のトレンド(冷凍・冷蔵倉庫における標準化の方向性)等について考察しました。
2、新たな物流施設(冷凍・冷蔵倉庫)需要の拡張について
- 経済産業省の「令和5年度電子商取引に関する市場調査」によると、EC市場の急拡大を受け、令和5年度には24.8兆円規模、物販系分野では、14.6兆円規模となっています。
- 同調査によると、物販系分野のうち、食品、飲料、酒類は2.9兆円規模となり、過去10年では、2倍強に著増しています。
一方EC化率(BtoCの商取引市場規模を分母、BtoC‐ECの市場規模を分子として算出)では、物販系分野が9%超であるのに対し、4%程度に留まっていることから、生活スタイルの変化等(注)を考慮すると、今後の伸びが見込まれます。
(注)新型コロナウイルス感染症拡大前(2019年)比では、特に調理食品の伸び(7.7%増)が大きく寄与、共働き世帯の増加、高齢化(個食化)、冷凍食品や調理済食品(中食)の浸透といった、生活スタイルの変化が後押ししているものと推察。
- 一般社団法人日本冷凍食品協会の調査によると、冷凍食品の消費量(注)及び、同冷凍食品一人当たり年間消費量とも、過去10年では、それぞれ増加基調にあります。(注)国内生産・輸入計、但し冷蔵食品は含まない。
冷凍食品消費量は、新型コロナウイルス感染症拡大前(2019年)比では、家庭用が伸びる一方、業務用が減少したため、全体では足踏み状態にあるものの、家庭用における食品EC化率の上昇等を支えに今後の需要拡大が見込まれます。
3、普通倉庫と冷凍・冷蔵倉庫の相違等について
(注)一般に倉庫は、自家用倉庫と営業倉庫に分類され、さらに営業倉庫は、普通倉庫、冷蔵倉庫、水面倉庫、トランクルーム、特別倉庫に5分類されます。
普通倉庫は、1~3類倉庫、野積倉庫、貯蔵槽倉庫、危険品倉庫(危険物倉庫とも呼称される)、トランクルームを総称したもので、上記では、1~3類倉庫を念頭に記載しました。
冷蔵倉庫は、冷蔵倉庫と冷凍倉庫の総称です。
(出所:国土交通省 倉庫統計季報)
(注)上記は、普通倉庫のうち1~3類(設備、構造基準により、グレード分類)の計
4、冷凍・冷蔵倉庫の開発動向について
(1) 物流チェーンへの開発・投資動向
足下、物流施設需要の拡張に伴い、物流チェーンへの投資が活発化しています。
- 三井不動産と日本GLPは、2030年までに合計5000億円投じる計画を公表(冷凍や冷蔵の物流網整備)
- 三菱地所は、今後10年で5000億円の投資を公表(EV・2024年問題に対応した新供給網整備)
- 大和ハウス工業は、今期3000億円の投資を公表(冷凍・冷蔵含む全方位で物流施設展開)等
(2) GLP神戸住吉浜の開発について
2023年7月31日付プレスリリースによれば、施設概要やコンセプトは以下のとおりです。
①施設概要やコンセプト
(外観)
(出所:2023年7月31日プレスリリースによる外観イメージ)
(立地)
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- 神戸市東灘区住吉浜町
- 神戸湾岸エリアに位置(広域配送可能な物流拠点であり、雇用確保にも優位性)
(竣工時期、施設規模等)
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- 2025年2月竣工予定
- 敷地面積:約21,000㎡
- 延床面積:約45,000㎡(地上5階建、3階へのランプウェイ設置)
- 収容能力:約52,660t(C&F級:52,660t)
(主な特長)
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- 冷凍・冷蔵の温度帯切り替えが可能な全館可変温度帯仕様(-25℃~10℃)
有効天井高:5.5m、耐荷重:1.5t/㎡ - マルチテナント対応(最大8テナント)
- 環境配慮・省エネ(自然冷媒を採用し電力消費量を逓減、屋上への太陽光発電設置等)
- 入居企業(賃借人)による投資低減 等
- 冷凍・冷蔵の温度帯切り替えが可能な全館可変温度帯仕様(-25℃~10℃)
②施設開発の意義
上記のとおり、GLP神戸住吉浜は、冷凍・冷蔵倉庫のマルチ型賃貸標準化に先鞭をつけた物流施設です。
現時点では、上記プレスリリース以外の情報(賃貸条件、賃貸人・賃借人の資産区分、スパン等のスぺック等)は不詳ですが、物流倉庫のメッカに立地し、港湾立地による冷凍食品の輸入等の利便性を考慮すれば、一定の訴求力があるものと思料されます。また、持続可能性や環境への負荷低減(省エネや再生可能エネルギーの活用など)といった要請に対応した施設優位性もあります。
今後とも、冷凍・冷蔵倉庫における標準化の進展や、立地タイプの拡大(流通立地、産地立地等)等、マーケット動向を注視していきたいと思います。