1、データセンターとその市場動向
JDCC(日本データセンター協会)によると、データセンターとは「インターネット用のサーバーやデータ通信、固定・携帯・IP電話などの装置を設置・運用することに特化した建物」と定義されています。
データセンターの主要な設備としては、①サーバールーム(ラックを格納)、②電源設備(受変電設備、UPS、非常用発電機等)、③空調設備(サーバー冷却)、④ネットワーク機器等が挙げられます。
JDCCによれば、日本のデータセンターサービスの市場(売上高)は、2022年には2兆円を超え、今後も、クラウド(注)への移行の進展等を背景に、増加を見込んでいます。
(注)クラウドでは、インターネットを経由して、仮想的な利用環境が提供されており、データセンターでの情報処理と密接な関連を有しています。
今後は、自動運転システムの導入等、DXの本格化に伴い、AIやITを用いた膨大な情報処理が必要になることから、データセンター市場規模の更なる拡大が見込まれています。
一方、不動産としてのデータセンターに着目すると、REITの取引状況等では、オペレーショナルアセットであること等もあり、プレイヤーは限定されていましたが、今後は、マーケットの拡大(ICTの普及や高度化に伴う広域立地の可能性、用途に応じた大規模化、高度化の進展等)に伴い、流動性の改善等が期待できます。
以下では、データセンター事業と不動産事業の関わり、特殊不動産としてのデータセンターについて整理するとともに、不動産鑑定評価のあり方について簡単にまとめました。
2、データセンター事業と不動産事業の関り
(1) データセンター事業の提供サービス
データセンター事業として提供されるサービスは、①ハウジング(コロケーション)、②ホスティング、③マネージドサービスに分けられます。
政策投資銀行のレポートでは、提供サービスを以下のとおり分類しています。
(出所:日本政策投資銀行のレポート(データセンター業界レポート2021年11月)
(注)Sier系:NEC、富士通、野村総研等、通信キャリア系:NTT、KDDI等、クラウド事業者:AWS、Microsoft、Google等、DC特化系事業者:さくらインターネット等
(2) 資産区分及び不動産事業・データセンター事業の関係
以下のとおり、不動産事業とデータセンター事業とは密接不可分な関係にあります。
近年は、上記のとおりクラウド利用への移行が増加しています。DXの加速により、企業内のデータセンター(エンタープライズデータセンター)等ではオンプレミス運用(企業自社での管理・運用)から、クラウドに移行することで、費用負担の軽減(企業側では機器を所有する必要がない)等が図られています。
3、特殊不動産としてのデータセンター
(1) 不動産等の資産の構成と特徴
(注1)不動産と、サーバー・ストレージ・ラック等が一体利用(密接不可分)されており、特に資産区分の把握が重要である。
(注2)データセンターは、通常の建物と比較して、データセンター特有の建物・設備の占める割合が大きい。
(2) 特殊不動産としての特徴
特殊不動産として、以下の特徴が挙げられます。
- データセンター全体で見た場合、不動産以外の資産割合が他のオペレーショナルアセット(ホテル等)に比べて大きい。
- ラック内に設置されるサーバーは大量の電気の消費を伴うことから、ラックの数や必要電力量(受電容量/PUE(エネルギー効率))がデータセンター事業者の収益性に直結します。
- 当該資産の高度化ニーズ(高重量化、高電気容量等)に即応した建物の更新が求められ、他の不動産に比べ建物陳腐化リスクが高くなる傾向があります。
- JDCCでは、地震リスク評価、ファシリティリスク評価、運営管理リスク評価からなる独自の格付け(ティア1~4)を以下のとおり行っています。
ティア4では、「DC専用、地震リスク(PML10%未満)、新耐震基準準拠、セキュリティレベルが高位、設備の冗長性等」の基準の充足が求められています。データセンターへの投資判断における一定の目安になるものと推察します。
4、データセンターの不動産鑑定評価のあり方
ここでは、データセンター事業者が不動産を賃借し、ラック・サーバー等を設置し、ホスティング事業を行う場合の不動産鑑定評価について考察します。
データセンターは、不動産鑑定評価においては、オペレーショナルアセット(事業用不動産)に分類されます。不動産鑑定評価基準等に準拠し、事業評価の部分と、不動産評価の部分に分け、評価手順を以下のとおり整理しました。
(1) 収益評価の手順
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- 負担可能賃料、契約賃料の妥当性
実績資料を基に、売上高・売上原価・販売費・一般管理費等よりGOPを求め、その水準を検証します。
また、売上高について、電力単位あたりの使用料(又はラックあたり使用料)、ラック台数、標準的な稼働率等をもとにした水準との比較検証を行います。
サーバー設備やデータセンター設備等は賃借人に帰属する資産であり、当該積立金を控除して負担可能賃料を求めます。
- 負担可能賃料、契約賃料の妥当性
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- NCF
契約賃料に基づく運営収益より運営費用を控除してNOIを求め、一時金の運用益、資本的支出を考慮してNCFを求めます。 - 還元利回り(キャップレート)
利回りの査定にあたっては、類似物件(リートの保有物件等)との比較や、将来動向等を勘案します。 - 収益価格
純収益(NCF)に適切なキャップレートを適用して評価します。
同時に、過去からの評価ノウハウ・データ蓄積による諸指標等に照らし、事業収支の水準や、事業評価の場合の利回りとの開差の妥当性等を検証します。
- NCF
(2) 今後のデータセンター評価のあり方について
2000年頃に建てられたデータセンターの更新時期が順次到来しています。
設備老朽化により、最近の高度化ニーズへの対応(電力、空調(サーバー冷却設備)、床荷重、天井高等)が難しい物件もあり、他の用途への転用が困難なことや、データセンターの立地特性等を勘案し、順次建替え等が進展するものと推察します。
また、データセンターは、電力消費・CO₂排出量が多い環境不動産であり、最近、NTT、東京電力ホールディングス共同での、再生可能エネルギーで電力をまかなうデータセンターの開発計画(2027年、千葉県白井市)が発表される等、今後の動向に注目が集まっています。
環境不動産の評価にあたっては、ESGやSDGs等に配慮した建物要件の充足チェックの視点も欠かせません。
今後は、こうした事業用不動産(環境不動産)に対する評価の専門性を有する不動産鑑定士・不動産鑑定業者の活躍の場が広がっていくものと推察します。