1、はじめに
コロナ禍でのEC市場の急拡大を受け、宅配便取扱個数が大きく増加し、配送の小口化、再配達による多頻度化等によりトラック需要が高まる一方、物流業界は、トラック運転手不足という構造問題があるなかで、「物流の2024年問題」(「働き方改革法」と「改善基準告示(トラック運転手の時間外労働時間の上限規制等)」)への取組が喫緊の課題となっています。
EC市場の急拡大下、2024年問題への対応策の一つとして、ラストワンマイルに「都市型物流施設」を設置する動きが挙げられます。
都市型物流施設は、消費者とのラストワンマイルを縮めてサービス強化する動きとして見られるものであり、物流マーケットのトレンドとして、当該市場における施設需給動向等について考察しました。
なお、ここでは、以下の諸前提をおいています。
①ラストワンマイルとは、EC市場のBtoC(企業から消費者への物の流れ)における物流の最終配送拠点から消費者に至る最後の区間と捉えています。
②物流業、運送業、配送については、以下の整理をしています。
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- 物流業:商品を生産者・メーカーから、消費者に届けるまでの、運送・保管・流通加工といった一連の業務
- 運送業:トラックにより品物を倉庫から消費者に届ける一連の業務
- 配送:近距離での品物の小口の移動(運送に包含)
2、EC市場及びラストワンマイル市場規模
◯経済産業省の「令和5年度電子商取引に関する市場調査」によると、EC市場の急拡大を受け、令和5年度には24.8兆円規模、物販系分野では、14.6兆円規模となっています。これにより、宅配便取扱個数は増加基調を継続しています。
◯矢野経済研究所の「ラストワンマイル物流市場に関する調査(2023年)」によると、取扱個数の増加、物流費の高騰を背景にラストワンマイル物流市場規模は、令和5年度には3兆円を突破し、3.2兆円規模へ、令和7年度には3.4兆円規模への拡大を予測しています。
(注1)配送料(宅配関連サービスを含む)ベース
(注2)市場規模は、①通信販売、②ワンタイム型デリバリー、③定期販売型デリバリー、④個人間宅配の合計値。
(事業者間BtoB向けのラストワンマイル物流(施設や店舗向け配送など)、引越しサービス、置き配・宅配ボックス、配達ロボット、メール便、ドローンは対象外)
3、EC市場(BtoC市場)の商流・物流施設利用形態について
(1)EC市場の商流
BtoC:①~③の合計
(売り手と買い手の仲介を目的として第三者が運営するeマーケットプレイスについては、②の卸売業の一形態に算入)
荷主(メーカー、卸売企業、小売企業)には、消費者とのラストワンマイルを縮めたサービス強化として、最終配送拠点(ラストワンマイル施設である都市型物流施設)を新設する動きが見られます。
(注)3PL事業者は、上記荷主(メーカー、卸売企業、小売企業)の委託を受け、「物流センター業務」、「配送業務」、「情報システム業務」を担い、事業者(小売り等)・消費者宛てに商品の配送を行うものです。
4、物流施設のトレンドと都市型物流施設の需給動向等について
(1)物流施設トレンド
(2)都市型物流施設の施設タイプ・需給動向
<需要サイドの動向>
今年の8月に、EC市場を主導するAmazonが2024年の日本のラストワンマイル配送に250億円以上の追加投資をする旨、発表しました。
同社は、フルフィルメントセンター(商品の保管・管理)とデリバリーステーション(配送専用)で役割を分担しており、配送の効率化の観点から、2024年にデリバリーステーション(ラストワンマイル配送拠点)を15ヶ所程度開設する内容です。
同社の過去のデリバリーステーションの配置状況を見ると、ランプウェイ型(フロア賃借)とBOX型を併用しているようです。
<供給サイドの動向>
プロロジス(外資系開発デべ)のHPによれば、足下、江東区、墨田区、足立区、大田区、品川区に「プロロジスアーバン(7施設)」の開発を行っています。
都市部に求められる物流施設と業務機能を併せ持つ施設を基本コンセプトとし、敷地600坪以上のBOX型(地上3~6階建)となっています。
多層階につき、1~2階層程度を倉庫(一部の倉庫は冷凍・冷蔵倉庫機能も配備)とし、他の階層は、ショールーム、スタジオ、プロトタイプの実験・開発などとした多機能型で、マルチユース需要の受け皿(BtoBにも対応)となっています。
<今後の動向について>
需要サイドの動向としては、立地でいえば、最終消費者に近いところ、人口密集エリアへとの動きがある一方、賃貸面積では、配送専用とすることから、小さい面積が需要の中心です。
Amazonのラストワンマイル配送拠点の状況を見ると、開発物件への入居や市中の倉庫利用など幅広く、施設タイプも、ランプウェイ型からBOX型まで多彩です。
一方で、供給サイドの動向を見ると、多機能、高機能倉庫(マルチユース・BOX型)の供給が見受けられます。
賃貸にあたっては、ニーズのマッチングが肝要と思料されることから、立地のほか、施設形態がテナントニーズに合うか等、今後の動向(賃料・稼働動向等)に注視していきたい。