スタッフコラム

東京

相続税

相続税と最高裁判決及び国税不服審判所の裁決 ~ 最新判例より

国税当局の考え方

相続税財産評価に関する基本通達(以下、基本通達)には、例外規定があります。

「この通達の定めによって評価することが”著しく不適当”と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する」という規定(財産評価基本通達総則6項、以下、例外規定)です。

国税当局は、本件について、“著しく不適当”に該当するとして、不動産鑑定士による鑑定評価を求め、上記表D.のとおり甲・乙不動産の時価は合計で1,273,000千円と認定して、更正処分の通知を行いました。相続人は、この更正処分の通知に納得せず、まず、国税不服委審判所へ不服を申し立てたのでした。

国税不服審判所における争点

争点1:本件各不動産について、評価通達に定める評価方法によらないことが相当と認められる特別の事情があるか否か。平たく言うと、例外規定の適用の可否ということです。

争点2:本件付記理由に、本件各更正処分等を取り消すべき記載不備があるか否か。平たく言うと、更正処分の通知書等に例外規定を適用する具体的理由の記載が無く、これは、国税側の書類不備であり違法性があるのではないか、ということです。争点2については、行政手続法に関する解釈上のテクニカルな論点であり、不動産とは直関係がないので本稿では割愛させていただきますが、結論としては否決されています。

国税当局の主張(以下、争点1についての意訳)
  1. 例外規定は、評価通達に定める評価方法(通達評価額)を適用した場合に、客観的な交換価値から乖離することにより「課税の公平性」を欠く場合に適用する趣旨であり、通達評価額が時価を下回る場合(本件)だけではなく、上回る場合も含まれている。
  2. 本件では、通達評価額は、いずれも鑑定評価額の30%に満たない僅少なもので、著しい価額の乖離が認められる。
  3. 本件では、甲・乙不動産を除く他の資産が600,000円以上(X資産)あり、各不動産の購入及び借入により、結果として相続税額が算出されないことになったが、この方法を採用できない他の納税者との関係で租税の公平性を著しく害し、富の再分配機能を通じて経済的平等を実現するという相続税の機能に反する著しく不相当な結果をもたらしている。
  4. 本件各鑑定評価額は、いずれも不動産鑑定評価基準に準拠しており、収益還元法における純収益や各種利回りの査定も価格時点における不動産市況を反映した客観的で信頼性の高いものであるため、本件各不動産の本件相続開始日における時価を合理的に算定しているものと認められる。なお、本件各鑑定評価額に係る最終還元利回りは、類似の取引事例に係る取引利回り等を参考に、立地、建物のグレード、築年数、市場の需給動向、分析期間以降の収支予測に係るリスクの程度及び純収益の変動の可能性等を総合的に考慮して査定しており、将来の不確実性等も踏まえた信頼性の高いものである。
  5. 評価通達に定める評価方法を形式的に適用することによって、実質的な租税負担の公平が著しく害されることとなることは明らかで、本件各鑑定評価額は、相続税法第22条に規定する時価を適正に反映している。
  6. 本件各不動産の評価に当たって、評価通達に定める評価方法によらないことが相当と認められる特別の事情があるとして、例外規定を適用しても信義則に反するものとは認められない。
    • 上記下線分は、不動産鑑定士にとっては大変重要です。マンション(一棟全体)の鑑定評価手法には、収益還元法と原価法があり、両者による試算価格を調整して鑑定評価額が決定されます。本件ではそれぞれの試算価格、最終的な調整から鑑定評価額の決定までの詳細が不明ですが、裁決文の文脈から収益価格を重視したことがわかります。評価対象は賃貸マンションですので妥当な評価といえます。
    • 相続税法上の原則的方法である路線価方式による評価方法は、土地については、相続税路線価に基づき、建物については固定資産税評価額により時価を算定します。これは土地代+建物代という積上方式で鑑定評価の原価法に近い考え方です。
    • 評価方法は、簡便で恣意性が介在しない(誰が行っても同じ)ため、公平の観点から画一的に評価するには適しています。しかし、前面道路の路線価が同じであれば各土地の個別の事情(例えば、土地に土壌汚染がある)が反映されない、その土地が持つ潜在的な収益性が反映されない(例えば、住宅地域では店舗が可能であっても住宅地の価格で評価される)などの欠点もあります。

次に申立人である相続人の主張をみてみましょう。

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