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相続税

相続税と最高裁判決及び国税不服審判所の裁決 ~ 最新判例より

国税不服審判所の裁決

裁決文は、大変長く言い回しが複雑なので、大まかな論旨の流れで説明します。

① 本件の裁決文は、先ず、相続財産の評価における通達の理由を述べています。ここでは、通達による画一的評価のメリットとデメリットを述べていますが、納税者間の公平、納税者の便宜、徴税費用の節減という見地からみて、通達評価が合理的であるとしています。

② 通達評価によらない場合、それが合理的評価方法であっても、通達評価が可能な場合には認められない旨を以下の通とおり示しています。つまり、不動産鑑定士による鑑定評価であっても通達評価が可能な場合は認められない可能性が極めて高いということです。

特に租税平等主義という観点からして、評価通達に定められた評価方法が合理的なものである限り、これが形式的に全ての納税者に適用されることによって租税負担の実質的な公平をも実現することができるものと解されるから、特定の納税者あるいは特定の相続財産についてのみ評価通達に定める方法以外の方法によってその評価を行うことは、たとえその方法による評価額がそれ自体としては相続税法第22条の定める時価として許容できる範囲内のものであったとしても、納税者間の実質的負担の公平を欠くことになり、許されないものというべきである。

③ 他方で、実質的な租税負担の公平を著しく害することが明らかな場合には、別の評価方法によることが許されるとして、特殊な事情がある場合は、例外規定を適用すべきと述べています。

④ 続いて、事実認定をしています。国税不服審判所としての事実認定の概要は、次のとおりです。

・不動産を取得した時期は事業承継の一環として孫と養子縁組した時期に近いこと

・租税負担軽減を目的とする融資の稟議書が金融機関にあったこと

・通達評価額(既述表のA)は、購入金額(C)及び鑑定評価額(D)の30%未満であること

⑤ 以上を本件に当てはめて以下のとおり述べています。

・鑑定評価額は、原価法による積算価格、DCF法及び直接還元法による収益価格を試算し、収益価格を重視して決定されている。収益還元法の各手法の最終還元利回り、割引率、直接還元利回り、各純収益の査定は、対象不動産の実情及び相続開始時点の市場を反映しており、合理的に時価が算出されている。

・既述の事実認定により相続税の軽減を画策したことは明らかである。

・通達評価額を課税価格に算入すべきものとすると、相続人が、本件各不動産を取得しなかったならば負担していたはずの相続税を免れる利益を享受するという結果になる。

・これは、上記のとおり相続税の負担の軽減策を採ったことによるものであり、こ のような事態は、同様の軽減策を採らなかったほかの納税者との間の租税負担の公平はもちろん、被相続人が多額の財産を保有していないため、同様の軽減策によって相続税負担の軽減という効果を享受する余地のないほかの納税者との間での実質的な租税負担の公平を著しく害し、富の再分配機能を通じて経済的平等を実現するという相続税の目的に反する著しく不公平なものであるといえる。

・したがって、本件各不動産については、評価通達に定める評価方法を画一的に適用するという形式的な平等を貫くことによって、相続税の目的に反し、かえって実質的な租税負担の公平を著しく害することが明らかであることから、評価通達によらないことが相当と認められる特別の事情があると認められ、ほかの合理的な時価の評価方法である不動産鑑定評価に基づいて評価することが相当である。

結局のところ、争点1について、相続税の目的と公平性の観点から、例外規定の適用を妥当とし、通達評価額を主張した相続人の申立は認められませんでした。相続人の各主張についてはどのように判断したのでしょうか?次のページで見てみましょう。

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