路線価の公表を受けて
7月1日、国税庁より相続税路線価(以下、「路線価」という。)が公表されました。路線価は、相続税や贈与税の算定基準となる土地評価額です。毎年1月1日時点の価格が7月1日に公表されます。今年は2月の終わり頃から新型コロナウイルスの影響が深刻化しているので、路線価にはその影響が反映されていません。つまり、新型コロナウイルスの影響で地価が下落していたとしても反映されていないので、相続税や贈与税が実態より高く課税されるおそれがあります。
国税庁は、これを避けるため、全国の広い範囲で地価が下落し、路線価が時価を上回り多くの納税者に影響がでると判断した場合には、納税者への便宜を図る措置をとるとしています。具体的には、路線価を減額できる補正率を導入するようです。
神奈川県内の路線価は、平均で前年比1.1%上昇しました。上昇は7年連続で、2008年以来初めて1%を超えました。上昇率が最も高かったのは、横浜駅の新たな駅ビル「JR横浜タワー」が所在する横浜駅西口バスターミナル前通りです(前年比+34.5%)。また、最も高い価格をつけたのも同じ場所で(1560万円/㎡)、これまで最高価格をつけていた、同じく横浜駅西口バスターミナル前通り沿いの「横浜高島屋」の地点を約40年ぶりに逆転しました。「JR横浜タワー」の開発により、店舗や企業の集積がさらに進み、繁華性・収益性の向上につながっていることが反映されているとみられます。同タワーより歩行者デッキで直結する「JR横浜鶴屋町ビル」も完成しており、相乗効果で同ビルが所在する「鶴屋町地区」も高い上昇率となりました(鶴屋橋北側の市道高島台107号線:前年比+25.2%)。
「JR横浜タワー」は2015年10月に着工し、今年、2020年6月に商業施設など大部分が開業するに至りました。横浜駅ではこれ以前にも、路線の拡充や商業施設の整備などで1世紀近く工事が続いていることから、「日本のサグラダ・ファミリア」と呼ばれることがあります。同タワーの完成で、ついに日本のサグラダ・ファミリアが完成かとも思いましたが、西口駅前広場や鶴屋町地区などでは、現在も工事が行われているため、まだまだ完成とはいえないようです。小さい頃から横浜駅を見てきた筆者にとっては、未完であるにもかかわらず少し安心した気持ちになりました。
ところで、現在の横浜駅は3代目になります。
初代横浜駅は、現在の桜木町駅にありました。日本で初めての鉄道が新橋~横浜間で開通した1872年に開業しました。駅舎は、建築家のR・P・ブリジェンスというアメリカ人により設計された木骨石張り2階建ての建物でした。当時は「横浜ステンショ」と呼ばれていたそうです。
2代目横浜駅は1915年、現在の国道1号線と国道16号線が合流する高島町交差点付近に開業しました。横浜に土地勘のある方であればわかるかと思いますが、初代横浜駅、すなわち現在の桜木町駅は、東海道線から海辺方面へ分岐した先にあります。そのため、かつて東海道線は横浜駅で進行方向を変えるスイッチバックを行っていました。しかしながら、この方式は不便であったため、横浜駅を経由しない短絡直通線を開通し、そこに平沼駅(現在の相鉄線平沼橋駅付近)を作るなど解消を試みましたが、結果的にさらに不便になってしまい、東海道線が横浜駅を通過するような状況になったため、既述のとおり2代目横浜駅が建設され、初代横浜駅は「桜木町」駅となりました。ただ、2代目横浜駅は1923年に関東大震災で焼失してしまい、わずか8年という短い期間でその役目を終えました。
3代目横浜駅は、1928年、現在の横浜駅の位置に完成しました。今は西口の方が繁華な商業エリアとなっていますが、昔は東口が表玄関で、西口は裏口と呼ばれていました。米軍に接収されていたこともあり、開発が遅れたさびしい所だったそうです。県内随一の繁華性を誇る現在の状況からは、とても想像できません。3代目横浜駅は、1928年の昭和天皇の御大典のお召列車に間に合わせるため、難工事を1年半で完成させたものでした。
その後、駅舎の改築等を経て現在に至りますが、駅周辺を含め工事はまだまだ続いています。いつの日か完成する横浜駅がどのような姿か、楽しみに待ちたいと思います。
文章:田那邉広明