先日、2020年の基準地価格が公表されました。基準地価格は、公示価格とともに、一般の土地取引価格の指標や公共事業用地の取得価格算定の規準として利用されているものです。毎年7月1日時点の価格が9月の下旬に公表されます。
今年の基準地価格は、新型コロナウイルスの影響を織り込んだ最初の大規模な地価調査となりました。結果は、全国の全用途平均で前年比0.6%の下落とマイナスに転じました(前年は0.4%のプラス)。近年、地価は回復傾向にあったため、下落となるのは3年ぶりです。
神奈川県についても、住宅地の価格が3年ぶりに下落に転じ、下落率は0.9%とリーマンショックの打撃が残る2011年以来、9年ぶりの大きさでした。商業地と工業地は、それぞれ0.2%、1.5%のプラスと上昇を維持したものの、上昇幅が縮小しました(前年の変動率は商業地が2.5%、工業地が2.9%のプラス)。商業地は、横浜中華街の地点が前年の9.1%の上昇から2.9%の下落に転じたように、観光業や飲食業の影響が大きいエリアの地価が特に厳しい結果となっています。工業地は、コロナ禍でネット通販の市場拡大が加速している関係で、物流適地については好調な需要環境が続いたものの、製造業系工業地では、工場や機械設備投資の衰退、個人消費の落ち込みといった影響を受けており、総じて地価の上昇幅は縮小しました。特に横浜市金沢区では2.5%の下落と、前年の7.3%の上昇に比べて大幅に落ち込みました。これは、昨年の台風による高波の影響で、東京湾に面する同区の護岸が崩壊し、工業地帯に海水が流入したことにより、多くの工場や事業所で機械が損壊するなどの被害がでたことで、今後の災害への懸念が意識され、企業の進出需要が減ったことによります。
さて、筆者は6月12日付けのスタッフコラム「不動産市場の先行き」で、不動産価格はマイナスが予想されるといった主旨のことを述べました。このときに採用した不動産価格は、東京23区における基準地(商業地)の平均価格です。結果、この価格がどうなったかというと、前年の2,654,100円/㎡に比べて2,637,200円/㎡と、0.6%のマイナスになりました。ここで、「あれっ」と思われた方もいらっしゃるかと思います。そうです、公表された東京23区における基準地(商業地)の平均変動率は1.8%のプラスだからです。つまり、これは東京の中心部で地価が高い地点のマイナスの影響が大きかったことから、このような結果になったといえます。例えば、銀座や歌舞伎町といった地価が高い地点が下落になっているといった具合です。ちなみに、下落率のトップ3は銀座と歌舞伎町でした。
ということで、上記価格をベースにすると、同コラムで述べたとおり、法人企業統計調査(経常利益)の山(2018年度)から1年後、不動産業への新規貸出額の山(2016年度)から3年後に、一応は、不動産価格は山をつけたということになりました。不動産価格として何を用いるかによって結果は異なったと思いますが、東京中心部の地価変動は周辺へ波及する傾向があること、商業地の地価は景気動向をより敏感に反映する傾向があることから、同コラムでは東京23区における商業地の平均価格を採用しました。
法人企業統計調査(経常利益)と不動産業への新規貸出額については、最新の四半期データで、山をつけたあと下落傾向が続いているのは確認できるので、今後はこれら数値がどのような動きを示すか、また、不動産価格はどのような動きを示すか、注意深く見ていきたいと思います。
(注)データの出所は以下のとおり。
法人企業統計調査(経常利益):財務省
新規貸出額:日本銀行
不動産価格:東京都
なお、法人企業統計調査(経常利益)は、金融保険業を除く全産業・全規模の年次データ。新規
貸出額は、不動産業への設備資金新規貸出額・国内銀行(3勘定合算)のデータ。不動産価格
は、各年7月1日を基準日とする東京23区における商業地の平均価格。
文章:田那邉広明